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KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

食の歴史が自身の足跡を語る

空もまだ明るいうちに帰宅し家内に夕飯の支度を頼む。
ニンニクをたっぷり添えたカツオのたたき、めかぶともずく酢、トマトサラダ、酢味噌であえたほっき貝、レバーの炒め物。
下ごしらえの済んだ料理が次々登場する。

風邪に効くからと梅干し入りの焼酎お湯割りもつけてくれるから心得たものである。

家内の話に耳を傾けつつ箸を進める。
と、家内が一瞬黙った。

門の開く音。
学校から長男が帰ってきたのだった。

家内が長男の夕飯の支度を始めると同時、長男はリビングに姿を現した。
そして真っ直ぐキッチンに向かい家内の隣に並び立つ。
自分で卵を焼くのだという。

どうやら目当ては、たこせん。

先日、海外在住のちびっ子が我が家を訪れた。
その際、家内はたこせんを振る舞った。

そのせんべいがまだ残っており、今朝、長男はそれを目にしていた。
だから、たこせん。
今夜はたこせんを食べる、彼は朝一番からそう決めていたのだった。

油のひき方やら蓋するタイミングについて家内の助言を受けながら長男がみるみるうち目玉焼を仕上げていく。
準備を整え、彼はわたしの前に腰掛けた。

テーブルに並べられた料理には目もくれず、焼き立ての目玉焼きをせんべいにはさみ、ソースとマヨネーズを交互ジグザクにかけ彼は頬張った。

そのときふと、さっきコンビニで見かけたばかりの青年の姿が思い浮かんだ。

風邪を鎮圧するためには栄養ドリンク。
そう思ってわたしは帰宅前にコンビニに寄った。

レジに並んで、前に立つ青年に目が行った。
スーツがまだ様になっていない。
フレッシュマンだろう。
仕事帰りに見える。

青年はビニールに入った菓子パン2個とアイス1個を手にしている。
それが今夜の夕飯に違いない。

長男の食べる様子を目にしつつ、わたしはその青年を思い出し、かつての自分に重ね合わせていた。
東京で一人暮らししていたその昔、わたしも青年同様、主食はコンビニだった。

さすがに菓子パン2個ということはなかったが、ほぼ毎夜、レジに並んで夕飯にありついていた。
当時食べたコンビニ弁当のラインナップが列を成し、記憶のなかのレッドカーペットを闊歩する。

その道がいまここに続いていることが不思議でならない。
わたしはコンビニ弁当を食べ続け、そしていま、コンビニ弁当を口にすることは全くない。

いつか長男も一人で暮らし、手軽簡便な粗食に甘んじる時期も来るのだろう。

若き独り立ちの時代、いいものを食べ過ぎればその人生に発展はなく、粗食であればあるほど大成する、そんな法則があるのではないだろうか。
わたしなどコンビニではあったが中途半端に欲張って食べてきたから結果伸び悩み、ちっぽけな存在のまま後半生に差し掛かってしまった。

たこせんを食べ終えた長男の前に、ほかほか湯気立てる白ご飯が置かれる。
いくつか小皿が並べられるが、マグロの刺身まである。
確かわたしのメニューにはなかった一品だ。

前菜のたこせんを平らげた勢いのまま第二ラウンド。
剣を振るうように箸を使い、彼はすべての料理を間髪おかずに仕留めていった。

親元にあるいまのうち、たっぷりと食べておくことである。
そう思って目を細める。
いつか親と離れ、菓子パン2個という日もあるだろう。

そこからがスタートで、独り立ちしてからの食生活の変遷が自身の足跡を如実に物語ることになる。

風邪をこじらせそう気づいた一夜となった。

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