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子らに語る時々日記

姜昌勲著「大人の発達障害診療マニュアル」を読んだ。


第一次世界大戦が起こった原因について精神的な側面からアプローチしたミヒャエル・ハネケの「白いリボン」を見て以来、第一次世界大戦の話になるとなにせ注目してしまうのであるが、国際政治学者の小西克哉氏がラジオで紹介していた話にとても興味が惹かれた。

歴史においては「たられば」という切り口を導入することでよりクリアに見えてくる時代背景や相関図といったものがある。
歴史学者のニーアル・ファーガソンが、イギリスがドイツに宣戦布告さえしていなければ第一次世界大戦第二次世界大戦も起こることがなく、ヒトラーは出現 せず、EUがもっと早くに実現し、半世紀に渡って世界中で犠牲者が累々重なったあの巨大な惨事は防げたと主張しているのだという。

関心抑えることができず、ニーアル・ファーガソンの書物をアマゾンで検索し、新刊がない場合には古本、翻訳がない場合には原書をという形で、片っ端から買い求めた。

向こう1年、夜の読み物には困らないほどの分量となった。
届けられたそれら書物を傍らに積み上げ、眺める。

そして、まずは手始め、先日購入していた姜昌勲「おとなの発達障害診療マニュアル」を読み始めるのであった。


門外漢にとって精神疾患の概念ほど分かりにくいものはない。

ウツやら新型ウツと巷間よく耳にする病名だけでなく、境界型やらADHDアスペルガー発達障害、自閉スペクトラム、このように数々専門用語が並べば何が何だか訳が分からなくなってくる。

聞くところ、それら個々の疾患においても症状には個人差があり程度も様々、それに複数の症状が混じり合うこともあるという。

そうなれば、組み合わせが多すぎて頭こんがらがり、とても一般的な概念として整理し理解するなどお手上げとなる。

全部一言、「精神的な病」、という十把一絡げで括りたくなるというものだ。

しかし、社会生活を営み様々な人々と交流するなか、「門外漢」であっても「精神的な病」の概要について、知らぬ存ぜぬを決め込むことができない時代になりつつある。

「精神的な病」とは切っても切れない社会に我々は生きている。

「おとなの発達障害診療マニュアル」において姜昌勲は7つのステップを経ながら、「発達障害」を軸にそれら精神疾患の連関を解き明かし、診断や対応の肝について詳述していく。

漫然と耳にし曖昧でいい加減なイメージで捉えていた精神疾患の実際と関係性、位置づけが読み進むうち靄が晴れ渡るように明瞭となってくる。


本書によれば精神的な疾患に苦しむ人は増加の一途だという。

社会的な認知の広がりや診断概念の普及といった疾患喧伝効果によって増加しているという側面も考えられる一方、

子供については、父親や母親の高齢化によるエピゲノムやエピジェネティクスな遺伝子変化が影響している側面が無視できず、

大人については、世知辛さ増す時代環境が要因となっていると考えられる。

社会から余裕がなくなり個人が負う責任が増していく。
弱者から決壊しはじめ症状として顕在化してくる。

強者に優しく弱者に厳しいという、いま現在の日本の在りようを見れば、増加の傾向が止むことは考えられず、見回せば何らか心を患っている人がそこら中にいるという社会が常態化するのであろう。

やはり無知であっては済まされない。

混乱極めたような精神疾患の概念について、統一的かつ適切な知識の普及を図ることが精神科医にとっての急務であろう。

姜昌勲のように臨床の現場に身を置く者による分かりやすい情報発信がますます盛んになることが不可欠と言える。


同書のなかで姜昌勲が水平思考について取り上げ、Edward de Bonoに触れていた。
思いがけぬところで懐かしい再会を果たせたような感慨を覚えた。

家の書棚を漁ると、Edward de Bonoの原書が10冊出てきた。

これは大事な本であり、英語も平明なので、子らの英語読本として取り分けておくことにする。

はじめてEdward de Bonoの本を目にしたのは、15年ほど前、トランジットで立ち寄った香港の書店であった。

NEW THINKING FOR THE NEW MILLENNIUM という本に目が留まった。

Edward de Bono maintains that the thinking of the last millennium has been concerned with what is. This is the thinking of analysis, criticism, and argument. What we have not sufficiently developed is the thinking concerned with what can be. This is the thinking that is creative and constructive.

背表紙にあったこのフレーズで買い求め、その後、行く先々本屋に入る度に物色し都合10冊を収集したのであった。

ものを考えるなら、Edward de Bonoは必ず読んでおく必要があるだろう。
思考において偏りや歪みを生み出す頭のなかの引っ掛かりや、つっかえなどを減らすことができる。

考える、というそれ自体についても学ぶことが必要なのだ。

仕事場のデスクの横に10冊積み上げた。
再読したくてたまらない。
これで更に向こう1年、読むものには困らないこととなった。