KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

渡米前夜、スーツケースを家族で囲む


カツ丼と聞いて「たけふく」を思い浮かべない人はない。
どこか他の屋号が頭をよぎったのであれば、真実のカツ丼を知らないことが証されたようなものであり、カツ丼もどきを充てがわれていたこれまでの日々から脱するため一も二もなく急ぎ「たけふく」の門を叩いた方がいい。

住みよい街ランキングで上位常連の西宮北口の地、西日本随一のショッピンセンターである阪急西宮ガーデンズから徒歩5分もかからない場所に「たけふく」は店を構える。
いや、来歴に順じて言うなら、「たけふく」から歩いて5分の場所にガーデンズがあるというべきであろう。

うちの子らは機会を捉えて「たけふく」に通う。
午後3時半には閉店となるため頻繁に訪れることは難しいが、タイミングが合えば食事処として「たけふく」が筆頭にあがる。

各種メニューがあるなか当然のようにカツ丼を注文する。
もちろん大盛り、玉子も必須。
そして、カツとご飯の食べ進め方について各自が確立した流儀に従って平らげていく。


かつて長男が小5の頃のこと。
たけふくのカツ丼をどうしても食べたいという日があった。

ラグビーのハードワークが週3回、おまけに間隙を縫って塾にまで通う。
疲弊していた。
ここは一つ自らを立て直すカンフル剤としてどうしても「たけふく」のカツ丼が必要だ。

しかしあいにくその日は午前中にラグビーの練習があって午後から公開模試であった。
試験終了が15:30で「たけふく」の閉店も15:30。

西宮北口の教室から大急ぎで向かっても付け入る時間差がなく間に合うはずがない。

そこで前日、家内がダメ元で「たけふく」に電話した。

うちの子は「たけふく」のカツ丼の根っからの大ファンであるが、明日、どうしても食べたいという。
ところが、かくかくしかじか、その願いは僅かな差で叶いそうにない。

「お坊ちゃんが見えるまで、お店、開けておきますよ」
たけふくの店主は、間髪入れずまさかそのように答えてくれた。
ご存知の方も多いであろうが、ここの店主はとても愛想が良くてお優しい。


昨日、渡米前の長男の友人ら8人が我が家に集った。
公園でラグビーなどした後、長男が引き連れ、皆で群れなし「たけふく」に向かった。

美味い美味いと運動部の部員さながらの勢いでカツ丼をかっ食らったという。
渡航前の腹ごしらえとして格好。
これで彼の地においての彼らの元気旺盛は担保されたようなものである。

我が子らの成長の過程に伴走してくれるかのような名店の存在に感謝の念が湧く。
ご高齢に差し掛かりつつある店主の長寿を心から願いたい。

子らが長じ地元で住むのかあるいはどこか遠くの地で暮らすのか、今時点で分かることではないけれど、故郷の味として「たけふく」のカツ丼を忘れることは生涯ないであろう。
伝説の味として子々孫々にまで語り継がれるに違いない。


夜、百リットルの荷を家族で総点検する。

ホストファミリーに手渡すおみやげについて一つ一つ取り出し家内が長男に説明する。
二男は食卓で勉強しつつそれを横目にし、私はソファで横たわってその様子を眺める。

インテリアとしての和風提灯やら、柔麺、即席麺、香辛料、文具、キティーちゃん、お菓子などがずらずらと出てくる。
変装メガネを筆頭にハナヒゲセットなどのパーティーグッズも取り揃えられている。

長男が首を傾げて言う。
そんなんいらんやろ。
しかし、家内がその意義を説く。
絶対にウケるし喜ばれる。

引き続き、肩掛けポーチを使ってスリ対策のレクチャーが始まる。
身の防ぎ方などを家内が実践し、長男が嫌々ながらそれを真似る。

まるでドリフのコントの光景。
家内が志村けんで長男がいかりや長介

やっている方は大真面目でも見ている側は笑いが止まらない。

スーツケースを皆で囲んでいると旅情がかき立てられる。

春はどこへ行こうか。
メルボルンと名が挙がる。
5年連続、世界住みよい都市ランキングでぶっちぎりトップの地。


今日、長男はJR西宮からリムジンバスで関空へと向かう。

これが機会にJR西宮を玄関としてこの先何度でも辿ることになるお決まりのコースとなることだろう。
そのうち旅の流儀も定まっていくに違いない。

「イタケーを目指して旅立つ時には長い旅路を願え」
今回の経験が永く心に留まり、これから何度でも旅が繰り返されることになる。

発見に満ち収穫盛り沢山、長い長い旅の始まりの第一歩を心から祝福したい。

f:id:otatakamori:20151028082423j:plain