KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

蝶を追わぬと決める


忘年会シーズンになると思い出す。
レジャー関連の会社であった。

座敷大広間での忘年会。
恒例のゲームがあった。

髭面ダンディな役員の合図で全員が立つ。

ダンディの手には万札が5枚。
それが大ぶりの蝶のようにヒラヒラと舞う。

太鼓持ちの掛け声でじゃんけんが始まる。
その蝶は勝者に進呈される。

じゃんけんぽん。
幸先いい勝者は満更でもない様子だ。

じゃんけんぽん。
いよいよ眼の色が変わってくる。

じゃんけんぽん。
悲鳴と歓喜が交差する。

じゃんけんぽん。
場は殺気立つ。

勝ち残った五人で談合し各々一万円ずつ分けるなど許されない。
オールオアナッシング。

最後の対決。
たいてい、よくしたもので一対一となる。

一対九でたちまち決着といった剣の達人がするような一網打尽など目にしたことがない。

皆が息を呑み勝負の行方を見守る。
勝者は狂喜乱舞し顔を紅潮させ、敗者は悲嘆にくれ立ち尽くす。


私は決まってすぐさま敗退した。

五万あれば家計が助かる。
そう思うとちょっとは関心惹かれるが、なければないで困るというわけでもない。

どうでもいいといったスタンスで臨んで、皆の凄味意気込みに気圧され竦んで、あっというまに押し出される。
毎度そのようなパターンであった。

負けてホッとする。
万一、勝ち続けその気になって、あと一歩で敗れれば無念極まりなく心の整理をつけがたい。

そして、座って皆の様子を見届ける。


躍起になって無我夢中、グーチョキパーを繰り出す大人の姿は滑稽だ。

日頃気取った紳士も、すました淑女も五万に必死、鼻息荒く、押し合いへし合い相手おしのけ切り傷かすり傷ものともせず、その蝶へと、グーチョキパーと手を伸ばす。

その様は、チョキでもグーでもなく、紛れもなくパーそのもの。

進呈者は手にとまる蝶をヒラヒラさせ、パーの花咲く紳士淑女らを高みの見物、ご満悦。

まるで温まった海水によって上昇気流が生じ台風が発生するごとく。
たった五万で座敷に権力が発生するのだった。


蝶で釣って、たきつける。
これは何も座敷だけで見られる現象ではない。

魔力秘めたその蝶は掴みかかろうとする手を優雅にすり抜け今日も明日もそこらを飛び交う。
魅入られた者は血眼だから容易く蝶を目当てに手なづけられる。
そして追えば追うほど蝶は高く遠く、蝶使いのもとへと去っていく。

誰かがヒラヒラこれ見よがしする蝶に目を奪われれば、思う壺。
蝶は食わねど高楊枝。

追わぬと決めるのが蝶使いへの第一歩であろう。
振り返れば、そこにヒラヒラ蝶が舞う。

きっとそのようなパラドックスを蝶は好むに違いない。

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