KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

筋の通った静かな暮らし

雨のなか最寄駅までクルマで送ってもらった。

ヘッドライトに照らされる雨滴の軌跡はまさに横殴りであり、傘を差そうが気休めにもならない。
ひと気少なく暗くて細いこの道は究極的に心寂しく、もし歩いたのだとすれば、ずぶ濡れになって冷えて震えて何もかもが嫌になって陰々滅々、当分の間、伏せって寝込むという事態に陥ったことであろう。

幸いクルマであればわずか10分足らず、闇と雨は窓越し遮断され人たる所以の精気は一片も毀損されることなく保持された。

顧客に礼を述べJR尼崎駅のローターリーでクルマを降りる。
しかしわたしの足は改札へとは向かわず途中にあった一杯飲み屋に吸い込まれていった。

喉が乾いていたし、なによりも仕事で昂ぶった神経を一旦きりよく鎮めたかった。
家へと帰還する前、たまには一息入れることがあっていい。

カウンターに座って瓶ビールを頼む。
キリンかアサヒかと問われ即座キリンと答えた。
昭和ムードの古びた店にはキリンがよく合う。

雨音を肴にひとり手酌で麦酒をあおる。

家では夕飯が待つ。
腹に余白を残しておく必要があった。
刺身盛だけをつまみとして注文する。

カウンターには他に客が数人程度まばらに座っている。
誰もが年配者で、席にうずくまるようにして閉じた世界でちびちび酒精と向き合っている。

たちまちなんだか寂しくなった。
刺身を残しビール一本空けただけで、わたしは席を立って勘定を済ませた。

電車は強く打ちつける雨を軽々と跳ね返し瞬く間にわたしを住まいの街へと運んでくれた。

リビングに鎮座する食卓の定位置に腰掛ける。
傍らで子らが向かい合って一心に勉強に励んでいる。

その様子を眺めながらわたしの二次会が始まった。

特に取り柄も美質もない我が子二人ではあっても、必要なときに勉強に取り組めるという最低限の勤勉さが身についたことは慶賀すべきことだろう。
そう思えば中学受験した値打ちはあったと言えるのかもしれない。

タイミングを逸していれば、わたしのようなメリハリのない無用の長物が再生産されひとつふたつ家に転がっていたのであろうから、笑い事では済まされない。

この二人の有り様も、一歩の距離から心静かに見守ってきた家内のおかげと言うべきものなのだろう。

世には大した用事もないのにほっつき歩き、暮らしのリズムは幼い子らの自主性に任せ、朝令暮改で子を振り回し、思いついてはワイワイガヤガヤ子と戯れ、と思えば、思い直したのか今度は無理やり机に向かわせる、といった支離滅裂な人もあるというから、子からすればゆっくり育つはずの芽を刈り取られているも同然といったような話であろう。

筋の通った静かな暮らしがベースになければ子のパフォーマンスは下を向き、生涯にわたっての凶作を宿命づけられる。
誰が考えても分かるような話だと思うがどうやらそうではないらしい。

そのように酔ってふらふら考え巡らせ、いつしか寝入って夢を見た。

わたしは自転車を漕いでいる。
あとを子らが仲良く歩いてついてくる。

自転車なのでどんどん二人を引き離すはずだが、夢なのでそうならない。

後ろを歩く子らの談笑が聞こえ、それでわたしもなんだか楽しい。
時に二人が大笑いするので、それにつられてわたしも声上げ笑う。

ふと目覚め窓外に目をやる。
薄く明るく空は白みかかっている。
時計を見る。
まだ時間は大丈夫だ。
わたしは夢へと舞い戻る。

f:id:KORANIKATARUTOKIDOKI:20160617140206j:plain