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KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

来客あって家は大いに賑わった

週末金曜、帰宅すると来客あって家は大いなる賑わいのなかにあった。

男子らがずらり勢揃いし食卓を囲む様は壮観で、階段あがって一斉あげられた挨拶の声に一瞬わたしはたじろいだ。
ひるまず33期の者であることを告げ、若き後輩らに挨拶を返す。

食卓に目をやるとこの日家内が用意した料理はほぼすべてが食べ尽くされていた。
美味しかったですと皆が声を揃える。
家内も作り甲斐あったことだろう。

彼らがデザートの時間に移ってわたしは端っこに腰掛け残り物を頂戴する。
ぶりの湯引きが絶品で、これが美味いと感じるなど若さのわりに彼らの舌もなかなかの成熟度だと感心する。

彼ら来訪者のおかげで、この日わたしは伝説の唐揚にもありつくことができた。
食べれば一生忘れないと子らの間で噂される極上唐揚。

わたしは結婚以来はじめて口にすることになった。

絶句するほどおいしい。
とまで言えば大げさだが、口にしたとき脳が一斉味覚に集中する程度には明確に美味であった。
明日の弁当に入れる、との言葉を聞いてわたしは素直に喜んだ。

食後、別室にてしばらく待機し、わたしは自身の出番を待つ。
普段は書類屋稼業に身をやつしているが、わたしの本当の姿はお風呂係。

客人あるときに本領発揮。

ようやく声がかかった。
素早く支度しクルマのシートを増設しエンジンかけて空調を入れる。
これで準備万端。
あとは搭乗者を待つばかり。

全員の乗車を確認し、初心者がアクセル踏むみたいにクルマをゆっくり発進させる。
いつも以上の安全運転を心がける。

数学αも数学βも先生はわたしの頃と同じだ、その話題を切り札に会話に入ろうとするが、大波小波と縄跳びになかなか入れないノロマのようにもたついて言い出せず、結局あきらめ会話に耳傾ける役に徹することにした。

春になれば甲子園球場に行こう、プロ野球もいいが高校野球も見逃せない、などといった彼らの会話を黙って聞き続けた。

まもなく熊野の郷が見えてきた。
ここは広くてくつろげる。
どうせなら、ゆったり心地よく過ごせる風呂がいい。

が、雀の行水。
30分で熊野の郷を上がったのはこれまでのなかぶっちぎりの最短記録だ。
我々のように沈むみたいに湯を堪能するなど、細胞分裂かまびすしい若い男子には不要なことなのだろう。

帰途につく。
湯上がりの団欒を乗せクルマが北上する。
寒波襲来で一層冷え込む夜長、風呂で男子が以心伝心、雀の行水とは言え、深く強固に通じ合ったことに変わりはなかった。

明日は何をしよう、という会話のなかにわたしは首を突っ込んだ。
せっかくだから神戸はどうか。
海があって山があって街の景観は抜群だ。
将来のデートの予習にもなる。

そう勧めるが訴求しなかったようであった。
行きと同じで帰りも聞き役に徹することになった。

家に着いても引き続き彼らの団欒は終わることがなかった。
夜中になっても階下から声が聞こえる。

彼らも楽しいだろうが、家が賑わってわたしも楽しい。

徹夜するのだと張り切っていた彼らであったが、明け方にはすっかり寝入っていた。
起こさぬよう抜き足差し足しわたしは出発する。

運転しつつ気分がいい。
彼らはどのみち必ず一生の友だちとなる。

大人になってからの飲み会のたび、あのとき誰々の家に泊まった、風呂に入った、という会話が繰り広げられることになる。
40歳過ぎたわれわれがするのと同じこと。

この夜、我が家が彼ら青春の一幕を飾る舞台となった。
名画のロケ地に選ばれたみたいなものであり誉れに思う。

ロケバスの記憶が少しでも残ってくれるなら、お風呂係の面目躍如である。

来月には兄貴の友だちらがまたお出ましだろう。
万全を期しお風呂係は今からコンディションを整えておくこととしよう。

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Artur Pastor