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KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

恩師のメールで初心に返る

土曜夜、練習の終わる時間を見計らいクルマで灘浜グランドに向かう。

43号線は生活感ゼロで人の匂いもゼロ。
荒涼としたような異界であって日常が断線したような空間に見える。

このロケーションにDark Model がよく映える。
何度聴いても新たな発見があって飽きることがない。

早めに着くがすることもないのでテレビをつけた。
なんと懐かしい。
わたしが大学生だったときのドイツ語の先生が世界一受けたい授業に出て絵について解説している。

季節はまもなく春。
大学生として過ごした春の時間があれやこれやと浮かんで何だか楽しくなってくる。

メールが届く。
大学の恩師からだ。
毎月一回、卒業生に対し先生からエールが送られてくる。

得るもの多く、わたしは毎回このメールを楽しみにしている。

神戸灘浜グランド周辺は真っ暗でひと気もない。
わたしは一人静かにメールに目を通し始めた。

私は「Win-Win」という言葉が嫌いです。勝ち組に入るということは、その周りには入れなかった負け組がいるわけです。勝った自分たちだけがいい思いをする。それを目指して「お互い、Win-Winな関係になりましょうよ」なんて言って、手を握り合う人たちのえげつなさには、目を覆いたくなります。
自分たちだけいい思いをすればいいのか? それで許される世の中なのか?

大野先生の姿が目に浮かび、耳に先生節が蘇る。

私は「Happy-Happy」の世の中実現を目指しています。勝ち-負けというのはスポーツのように唯一の共通ルールの上に乗っているから出てくるものです。つまり単一の価値観から派生しています。しかし「幸せ」というのは多様な価値観、あるいは多様な状況に基づいているものです。一人の人間の中にも時間や空間、状況(TPO)によって、「幸せ」はさまざまです。そうであれば、全世界の人たちが同時に「Happy-Happy」になることは可能です。

なるほど。
いつだって学びがある。
Happy-Happy、とてもいい言葉だ。

それはどうすれば実現できるのか? そのカギは「利他」にあると思っています。まず他者のためにやる。その人が喜んでくれることが自分の喜びそのものになる。それが自分の幸せになる。自分が成功したとしても、他者がいたからこそ成し遂げられたという感謝が、これから自分も人のために何かしようということにつながっていく。そうした正しい連鎖が作れることがこれから大切なのだと思っています。

日常に埋没していると、利他という言葉すら忘れ、自分が何のために何をしているのかさえ考えなくなっていく。
そうそう、他者のため。
人が喜んでくれることが、自分の喜び。

目指すは、正しい連鎖、まさにそのとおり。
先生の言葉一つ一つで自らを照らし、いまの自分を検証しつつ読む。

大隈重信たちは、早稲田大学が育成すべき人材は「利他のリーダー」であるという意味のことを当時の言葉で語り、実践してきました。だからこそ、早稲田大学を巣立ったOB・OGたちは日本全国・そして世界の草の根、市井の人々から尊敬され続けてきたのです。これを途切れさせてはいけません。

わたしなどちっぽけな存在。
それでも初心に返るような気持ちになって、少しはマシになろうとの意欲が再燃してくる。
若き頃の思いはまだ胸のなかにちゃんとあって消えてはいない。

そのようにしみじみとひとりの世界にひたっていると、ドアが開いた。
練習終えた息子がへたり込むように助手席にどっかと腰をおろした。

ああ、今日はめちゃくちゃきつかった。
風呂上がりのおっさんみたいに長男は充実感たっぷりの声をあげ、一人練習内容について上機嫌で話し始めた。

わたしは話を聞きながら、クルマを発進させた。

43号線のお供は再びDark Model。
いつしか話は止んだ。
二人してじっと音楽に耳傾ける時間を共有することになった。

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Robert Doisneau, Paris, 1958