KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

記録係としての目標がひとつ生まれた夜

たまには飲みたいときもある。

 

そんなときに格好の店がある。

料理が美味しく、ぶらり一人で入れて気を使うことがない。

それに帰り道にあるからちょうどいい。

 

テーブル席に一人座って手酌でビールを飲む。

クシャクシャになったビーチボールに空気が入り始めるみたい、生気が戻ってくる。

 

月末だからだろうか、結構な客の入りである。

あちこちで会話に花が咲いている。

 

そういったガヤガヤのなか、一人静かに過ごすのも悪くない。

 

遠くに聞こえる漠とした音も近づくほどに意味を帯び、隣席の二人組の話については詳細まで明瞭だ。

 

38万。

まるでブルゾンちえみが35億と発声するみたい、一方の男性がもう一方に言った。

 

二人とも歳の頃は40過ぎ、高校か大学の同級生といった風に見える。

 

38万と聞かされた方は一瞬押し黙ってから言った。

38万なら年収600万。

うちは女房の稼ぎを入れないとそこまでいかない。

 

年600万なら悪くない。

何とかやっていける。

このまま勤めるのが楽で無難だ。

 

そのように互いの現状を励まし合うような会話が続いた。

 

二人の会話を耳にしつつ、わたしはこの昼に見た光景を思い出していた。

場所は梅田。

芝田の交差点である。

 

右から左へと信号渡るおじさんの歩く速度がどんどん早くなって、わたしの前を歩くおじさんに駆け寄った。

 

あら偶然。

買物ですか。

駆け寄ったおじさんが声をかけ、前を行くおじさんは立ち止まった。

 

会話からかつての同僚といった風に感じられた。

いまは現役を退き、たまに街をぶらぶらしている、そんなところだろう。

 

まだ日は高いのに、じゃあ飲みに行きましょうと二人は意気投合し肩を並べて歩き始めた。

飲む相手が見つかって嬉しくてたまらない、後ろ姿からそう見て取れた。

 

おじさんらの姿が横の二人組のその後といった風に重なって見え、おじさんらは年金の話をしたに違いないと思えてくる。

 

ふと仲間の顔を思い浮かべる。

現在進行形で皆が皆忙しく、おそらく相当年季入ったじいさんになっても依然として引き続き忙しいだろう。

 

人に頼られ喜ばれる技量は褪せることなく、晩年であっても研鑽欠かさずその腕を上げ続けるような者ばかりであるから、飲む場合にはいつまでもたっても必ずアポが要る。

 

手取り額や年金の話でしんみりやりとりするといったシーンはないだろうが、年齢とともに話題も変化きたしてくるのだろう。

 

かつて子どもだった私たちが、いま自分の子どもたちの話をし、そして、今度はどんな話をすることになるのだろう。

 

その推移を書き留めよう、ひょんな偶然から記録係としての目標がひとつ生まれた夜になった。

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Arthur Leipzig, Tug of War, New York 1949.