KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

当事者意識

深夜のAMラジオを聴きながら2号線を大阪方面へ向かう。
ゴールデンウィークですね、今日から9連休という方もいらっしゃるでしょう、といった話や、たった今、地震情報が入りました、3:59に地震があり西宮市、宝塚市の震度は1です、といった話の間に、聞いた事もないような、私が生まれるはるか前に流行ったような歌謡曲が流れ続ける。

自営業者となって以来、ゴールデンウィークだ、わーいわーいと休んだことも遊んだこともない。
だからといって、悲惨な我が身だ、何と苛酷な人生なんだ、などと嘆いたこともなければ、暗澹とした気持ちになったこともない。
むしろ、まとまった仕事ができるという予感で笑みさえこぼれそうになる。
我が身のことながら、好きでやっているのだとしか思えない。

友人の島田智明のことを思い出す。
高校生のとき、彼は宅建の本を読んでいた。
理系である。
そして、ほとんどの友人がそうであったように抜群に優秀で、淡々と余所見しながらでも名門国立に合格し医者などになるだろうと思われた人物である。
その彼が、全く畑違い、異境の書物とでも言うべきものに読みふけっている。
奇異に映った。

世間知らずで思慮浅く、思った端から何でも口にする愚かでデリカシーのかけらもなかった当時のわたしは、なんと無駄なことをしているのだ島田君と意見述べただけに留まらず、英単語でも覚えた方がましだろう、と助言までのたまったのであった。

しかし、どこか心の片隅で島田君の姿に強い何かを感じたのだろう、あの場面が焼き付いて残っている。
ちなみに、その後、私が宅建を取ることになるなんて、当時は思いもしなかった。

これは大事な一場面として子らに対し取り上げない訳には行かないだろう。

事業者の話である。
仕事においては、近くだけを見過ぎても、はたまた、遠くから眺めているだけでも、当事者意識が薄まって、事業を統制する立場が風前の灯火となる。

例えば、年配の歯医者さん。腕はいいけれど、お金のことや取引業者のことは税理士の言うことを鵜呑みにして全部任せてある。その人は、歯についてはよおく分かっていると自負しているが、お金のことはじめ、他のこと、備品の納入業者の見積金額がいくらだとか、そんなことを一切知らない。言われるまま。さっきは鵜呑みと言ったが、鴨でもある。

他方、出資者がぼーんとお金を出してくれて、本人に運送業の事業経験はないけれど、頼りになる参謀は海千山千の強者、任せていれば大丈夫、大きなスケールであれやこれや事業展望を描く。しかし、参謀が何をやっているのか、現場の仕事の流れも実のところよく分からない、お客に説明もできない。発言力を低下させてはならじと、全体みる立場を自任しあれやこれや言ってみるが、孤立感が増すばかり、現場と参謀が何を考えているのかますます分からなくなっていく。 

事業者には、自らのプレゼンスを発揮する確固とした持ち場と役割が不可欠なだけでなく、ぐっと視点転じ眼から光線出すみたいに焦点を可変化し、関係するすべて、関連業務、隣接領域、世事についてまで全部把握しようとするくらいの高い当事者意識が必要である。

その気になれば、業務を任せている担当者の持ち場を代替できるくらい前に突っ込み気味でいい。そうであって初めて、担当者の能力値、ピンなのかキリなのか、自分の代替者として相応しいのか、ろくでもないのか、推し量ることができる。

隣接する方面はじめ他分野にも関心を向ける、分からないことは調べる、たくさん本を読む。
習性になっていれば、時間がいくらあっても足りないほど面白い。

島田智明には若かりし頃から、幅広いフィールドを俯瞰し全体を見渡しつつ、遠近自在、対象に迫ったかと思えば、円転滑脱、隣接分野を渉猟し、理系も文系も包含する一騎当千のキャリア積む素養があったのである。

この能力を高速可変焦点力と名付けよう。
高く飛翔し、猛禽類のごとく睥睨し獲物を探索、一気急降下し鋭い爪で掴み取る。

そして、少し思い巡らすと、リミッター外せば、島田君だけでなくかつての級友の誰もがそのようなことを平気でこなす連中であると分かる。

しばらくは基礎的な勉強が続くけれど、それは間違いなく、可変焦点力機能を磨く訓練となる。だんだんと、全方位向いて様々な切り口で勉強できるようになっていく。
大学生になれば思う存分勉強できる。

おそらくは理系で6年かそこら学生時代を過ごすのだろうが、専門分野の勉強はもちろんのこと、学生時代にしか為せない読書体験もたんと積まなければならないし、海外留学も外せない。(バイトで貴重な持ち時間を数百円で売渡すくらいなら、身になる仕事を手弁当ででもさせてもらう方が遥かにお値打ちであるということも知っておかねばならない。)  
   
長い休みのどこかで100日程度の時間を捻出し、父がする書類屋稼業の資格を専攻分野のかたわらちょいと勉強して取得するのも、可変焦点力を磨く上で悪くない。しょぼくれた親父の代わりをパートタイムで務めることだってできるし、うちの事務所をさらにぴっかぴかに磨き上げてもらっても構わない。更に難しい試験を受ける準備体操にもなる。

もちろん、自営業者として何を専門分野にするかは好きにすればいい。しかし、そこが全てと単なる一分野の住人に留まらないことである。自らの仕事で生き延びるため、高速切替の可変焦点力で、横断的重層的に視線走らせ知見を広げ深め続けることである。それが自営業者としての当事者意識を高め続けることに繋がる。