KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

みんなを間違いに導く恐るべき空洞思考

怖い話と言えば舞台は学校と相場は決まっている。
我らの共通体験として背筋凍る話が尽きない。

過日、知人に聞いたある小学校での話である。

同級生に「ダンプ」と呼ばれ始めた女子児童がいた。
ある日、その呼称に傷ついたのか彼女が学校を休んだ。
ちょうど季節の変わり目、これまでの陽気がウソのように冷え込んだ寒い日のことだった。
その学校では体育館の壁面に悲痛な心の叫びが刻まれる等、教師達は過敏になっていた。
匿名のメッセージではあったが何か思わしくないことが進行し誰かが学校を苦にしているのは確かなようだった。

日頃から男子だけでなく女子も冗談半分でその女子児童をからかう風潮があった。
教師の知るところであり、当の女子児童が欠席したのでそのことについて教室で切り出した。

思い当たる奴はいないか。
みな下を向き、何も答えない。
教師は声のトーンをあげ、白状しなければ承知しないと詰問口調を強める。
重苦しい沈黙の時間が続く。

バァッーン、静寂を破るように教師が机を力いっぱい叩く。
その炸裂音で眼鏡ずり落ちた少年が、もう耐えられないといった様子で立ち上がり泣きじゃくる。
そして、ペラペラと一切合切話し始めた。
皆で寄ってたかってダンプ、ダンプとからかったこと。
男子だけでなく女子もそのように言い放ち冷たく接していたということ。
少年は洗いざらいすべてを詳らかにしてゆく。
そうすれば自分だけは助かると信じているかのように。

教師は黙って聞いている。
一瞬の静寂が訪れる。
そのタイミングを見計らっていたかのように教師はまた激高する。
なんてことだっ。
児童らは感電したようにびくっと身を震わせ、何人かは嗚咽を抑えられなくなる。

教師は一人一人に絡み始める。
何度そのような心ない発言をしたのか白状させ、反省の弁を述べさせてゆく。
そして、自分たちで解決せよ、と放り出す。
教室は再び重苦しい沈黙に包まれた。

ここで少しばかり説明が必要だ。
放り出すといっても、教師が導く暗黙の正解があり、児童が自由に考えられるわけではない。
児童は集団思考をたくましくし、迎合的な答えを出す以外にない。

子供である。
沈黙に長くは耐えられない。
限界に達し、何人かが再び泣き始める。
謝りたいと誰かが言い始める。
私も、私もとの声が続く。
そうだ、みんなで謝ろう。
今からでもすぐに謝りたい、今からでも謝りに行きたい、みなの心は一つになった。

そこで教師が呼応する。
そうだ、何が一番大事なことか、みな分かったか。
受験して私立に行くとそういった優しさや思いやりを知ることなく蹴落とし合いだけの、競争だけの人生になるんだ。
いいか。
これが公立の学校の良さなんだ。
よし、今からみんなで謝りに行くぞ。

教師の論旨は不明確だが、異を唱える児童はいない。
自らの非を棚に上げ、教師の揚げ足とるほどの図々しさも度胸もない。

4時限目の授業中である。
まだ下校の時間でもない。
教師は全員を引率し件の女子児童宅へアポもなく繰り出した。

玄関前に数十人が群がる。
呼び鈴鳴らし、一斉に呼び掛ける。
何の応答もない。
女子児童は出てこない。

出てくる訳がない。
そりゃそうである。
児童を反省に導くことは不可欠な指導であると認める。
しかし、いきなり大人数で家に行くなど、あってはならないことではないか。

それ自体がとてつもなく威圧的、もっと言えば暴力的な行為になる恐れがあると思い当たらないのだろうか。
闇金の取り立てや粗っぽい政治活動する街宣車、反社会勢力の殴り込みといった類の話ではないか。
大挙し真っ直ぐ家に向かってくる。
これはもう、めちゃくちゃ、怖い話である。
教師という大人がついていながら、というべきか、そんな大人が介在したからというべきか。

おそらく、かしこい子供もいたはずで、その行為の不適切さに平常心では思い至っても、同調圧力働く空間では穏当な意思決定ができない状態になっていたのだろう。
一人一人突き詰めれば、「いや、ちょっとおかしいなとは思ったのだけれど」と個々の声が拾えるに違いない。
そして、教師は教師で、「子供達の意思を尊重した」と言うはずだ。

つまり何処にも音頭取った人間の所在が明確に見えてこない。
そこには右へ倣えという姿勢だけがあるのであって、むけばむくほど空洞を顕にする悪しき日本風の集団思考の茫々とした構造が見えてくる。

この日本では小学校に通う幼い頃からよくよく注意しておかないと空洞思考に慣らされいつの間にかあの手この手で空っぽな人間にされてしまうのである。
こんな怖い話はない。

そして、本当に冗談みたいな話だが、ダンプと呼ばれた女子児童は単に風邪気味で家で休んでいただけであった。
みなが訪問して来たとき家にいたけれど、びっくりして閉じこもっていたんだよ、と笑って友達に語っていたということだ。