KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

袋だたきに遭う哀れな害獣

夜半、ショートメールの着信音が鳴る。
家内がテレビから視線を外しこちらをみる。
胸ポケットから携帯を取り出し、家内に見せる。
コピー屋さんからの連絡である。
新しいコピー機の設置についての連絡に過ぎない。
なにも怪しいことなどない。
模範的とも言えるほど清廉潔白な日々である。
どこで何をしているか全ての瞬間を詳らかにしても構わない。
おまけに、顎の下にも肉がついてきている。
どなたからであろうと艶あるお声などかかるはずがない。

ニュースではアナウンサーが逮捕されたと報じられている。
殺人や傷害、背任や横領といったようなかどではない。
全然違う。
痴漢と書いて、ち・か・ん、である。
電車内で女性に触ったという。
本人は酒に酔っていて覚えていないと否認している。
真偽のほどは定かではない。

無実であったとしても、前途は閉ざされ、これまでのキャリアは台無しになり、長年築き上げた周囲との信頼関係も瓦解し、今後何を言おうがちかん野郎と蔑まれる、もしくは腹のうちでせせら笑われることになる。
そうなることを免れ得ないのではないだろうか。
空恐ろしいことである。
一瞬にして、自分の立場が失われる。
郷党家門の面目も丸つぶれだ。
眼の前の全てが暗転したその一場面が絶えず付き纏い、清々しい気分とは一生無縁となる。

実際に手出ししていたとすれば、これは被害者からすれば人間観が変わってしまうほど身の毛もよだつ体験であろう。
知らない奴が手を伸ばし触ってくるのだ。
背筋凍り虫酸が走る。
しつこい汚物のごとく拭けども消せない不快感がこびりつき消えない。
何てことしてくれるのだという、まさに土足で人の尊厳を踏みにじる行為である。

生身の心ある人間である。
家族もいるし、友達も仲間もいる。
勝手な妄想をひとりよがり持ち込み、その世界に割り込んで亀裂を生じさせる権利は誰にもない。
そんなことも弁えない人品不備のオスなんて妄執のなすがままの肉塊みたいなものである。
罰し駆除されるのが当然の害獣と言えよう。

この手のニュースが跡を絶たない。
全て台無しになっても構わない、触れることさえできればあとは野となれ山となれと思う程の、黄金の実でもそこにあったと言うのだろうか。
彼ら破廉恥人種は一体何がしたくて、何を探し求めているのだろう。
薄暗い動機をひた隠しに近づき、親しい仲でも何でもない見ず知らずの相手を、触ったり、覗く。
外の冷気でもいったん吸い込んで、すっきりした頭で醒めて考えなければならない。
一体、それが何だというのだ。
そこに何があるというのだろう。

それがあると掴んだ先から、茫漠と荒れた心に虚無の風がビュービューと吹く。
確かに何かが起ったような気がする。
満足感の尻尾に触れたに違いない。
もっと踏み込めば、その正体に肉迫できるはずだ。
とんだお門違いだったと引き返す理知は機能せず今度こそとエスカレートしてゆく。
自らの妄想をまさぐっているのだという哀れで悲惨な自分の姿に気付くことができない。
こうなると、社会の危険因子以外の何ものでもない。

歪な妄想に他者を巻き込み、禍々しい影のような存在に堕していく。
影に侵食され陰鬱な世界を住み処とするようになる。
まさかそんな地に堕ちた者になるなど、まさか駆除される害獣になるなど、彼がおぎゃーと誕生した記念すべき日に誰が想像した事だろう。

突如、腕を掴まれ、明るみのもとに引きずり出される。
蛇蝎にするような軽蔑の視線と罵声に晒される。
いよいよ本当に、誰にもまともに相手されない、人としての温かな交流など存在しない、薄暗がりの世界で残りの時間を過ごさなければならなくなる。
自らに、最低だと軽蔑される。
尊厳を失った人生というのは絶え間ない責苦に身を縮め続ける生き地獄のようなものだろう。
これはもうやり切れない。