KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

24時間で息の根が止まる

これまでの経験から十分に弁えていたはずだった。
日曜夕刻、焼肉に舌鼓を打ち注がれるままビールを飲み、ああ楽しやと思った矢先に電話が鳴った。
FAX1枚の送信を忘れていたようだ。
イルミネーションのように顔色が赤から青へ、かなりの青へと変わる。
顧客に対し弁解の余地はない。
慌てて離席する。

土曜日に家族で映画に出かけイタリアンで食事し、翌日もウォーキングなどに明け暮れ、夕方から家族と合流し焼肉。
「2月になれば」という思いが募り過ぎて気の緩みが出た。
緩みは徐々に形成され、緩んではいけない状況のときに最高潮となる。
完全週休二日で育った児童は、大人になって土日に仕事しなければならなくてもココロもカラダも動かない。
そのようなことである。

2月は暇になる。
そんな訳がない。
いつか白馬に乗った王子様が現れるというのと同じくらいに根拠薄弱な虚妄に過ぎないとは本人が一番承知しているはずだった。

仕事から手が離れ、24時間を過ぎてしまった。

例えば精密なプラモデルを同時並行にいくつも作っていて、そのプロセスではありとあらゆる工程が構図としてしかと浮かんでいるが、そこを離れ時間が経ってしまうと、何をやっていたのやら訳が分からなくなる。
眼の前は各種の部品が散らかるだけの焼け野原。
復元は容易ではない。

頭のスクリーンに常時絶え間なく順序よく浮かんでいなければならない仕事の流れが、霞んで欠落し、無秩序となる。
ちょっとでも、例えば寝る前、朝起きたとき、食事中、タスクメモに目を通し、時間のやりくりを考え、などといった程度のことをするだけでもずいぶん違うのに、全く離れてしまうとたったの24時間で折角構築した秩序が無秩序に食い荒らされてゆく。

精神的には恐慌状態である。
明日からぶっつけ本番で月曜を迎えることになる。
あれもこれも、矢継ぎ早に課題が心中に押し寄せる。
いやな汗が流れる。
24時間以上非稼働に寝そべりFAX1枚失念しただけで、精神的には完全に劣勢に立たされる。

とにかく早く寝て早朝に状況を立て直そう。
しかし寝つきが悪い。
悪い夢ばかり見る。

納期限を過ぎた書類。
庁や署や局やいろんな役所のボンドガールから、性悪な声でかかってくる補正の連絡。
出し忘れた郵便物

そんなことあったら困るよね、ということばかりが夢に現れる。
まるで強迫観念に苛まれる病気である。
そう、そうなのだ。
ここまでの真剣勝負をして始めて、何とかやっていけるのである。
先手と後手を見極め秩序づけ、常に状況を御す統制感がなければ、タスクに呑まれ錯乱してしまうか、死んだふりするしかない人生となる。

いつもは快調な目覚めが、問題を恐れているのだ、なかなか起き上がれない。
しかしその一方で不安高まり動悸も激しくなる。
横になってられない。

朝5時に顔も洗わずクルマに乗って事務所へ向かう。
いつもよりグズグズしてしまった。

しかし事務所にやってきても、リズムが狂うとすぐに仕事に着手できない。
いちいち逡巡が生じてしまう。

以前書いたように、仕事血流が不足している状態だ。
これが世に言う、鬱やらの状態なのだろう。
鬱になると3行の計算すらやる気が失せるというではないか。
まさにそんな状態だ。
しかも食欲もない。
(昨晩、焼肉食ったからだろうという説もかなり有力であるが、何を食おうが食欲消えることのない私のケースでは焼肉説は棄却だ。)

無理やりざぶんと水に飛び込むように今日のタスクを書き出していく。
今週中にこちら側で対応すべき用事はほぼ片づいている事に気付く。
相手とのやりとりで煮詰めて行く課題は一週間を目一杯使って金曜までのどこかでやればいい。
まずは、ここ数日で目鼻立てるための仕事の情報収集と不足補うためのアポの確定をすればいいのだ。
恐慌状態のなか、理性が主導権を握り始め、状況を統制していく。
FAXやらメールやらを発信していく。

だんだんカラダが暖まってくる。
仕事の神様が戻ってきてくれたようだ。

やれやれである。
普段は何でもないことでも、ついうっかり持ち場はなれてしまうと訳が分からなくなってしまう。
一日でも休めば筋肉が衰えるとアスリートが言うのと同じで、書類屋も感度が鈍る。
こんなことは懲り懲りだ。

下手の考え休むに似たり。
凡人は考え続けていることが休息なのだよ、という意味だ。
三流書類屋として、この言葉を強く噛みしめたい。