KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

中学受験を振り返って(ホームで手を振る)

通常の業務に加え役所の調査対応やら日帰出張やら日々の一期一会な学びを咀嚼しつつてんやわんや過ごす相変わらずの月末であった。
仕事して疲れを抜いては仕事して。
季語もへったくれもない一句でも手向けよう。

本日土曜日、来週からの波乱に富むドタバタを軽快にくぐり抜ける自らの様子を予感しつつ、温泉に浸かり散髪しマッサージまで受け、ようやくいま机に腰かけ過ぎた日々をゆったり振り返るこの一時の何と静謐で貴重な時間であることだろう。

マッサージ屋のお兄さんに極力カラダを暖めて過ごすようアドバイスされて以来、このところ毎日温泉に浸かるようにしている。
具合のいいことに、事務所からほど近いところに一休という温泉場ができ、ここの泉質が実にいいのだ。
ぬるめの湯から熱め湯まで入り分けてカラダをポカポカにする。
30分でも時間があればクルマを寄せて茹でダコになる習慣となった。

お薦めスポットではあるけれど、一点だけ但書が必要だ。
休日の夕刻以降の混み方は怖じ気づくほどかもしれない。
近隣の住民だけでなくUSJ帰りの観光コースになっているのか団体バスが停車して続々と各地の民が押し寄せてくる。
ごったがえす東アジアの市場みたいな雰囲気となる。

公衆浴場に不慣れだと、男風呂などでは毛むくじゃらのゴリラの群れに取り囲まれるような圧迫感と心細さを覚えるかもしれない。

たまたまタイミングの悪い場面に出くわしたことがあった。
蒸気で視界がおぼろだったので、状況を把握しないまま私のつるつるの足先を湯に入れたのであったが、その途端にオイオイッとブーイングが起こった。
これがフランス語圏でウィーウィーなら歓迎の意味なのかもしれないが大阪でオイオイッは不快さを顕わにしそれを表明するための公式用語である。

目を凝らすと、そこはすでに所狭しと毛むくじゃらのゴリラが群居する密集地帯となっていた。
思わず胸を隠し、というのはウソだが、すごすご退散し、さらに人が多数押し寄せてくる様子だったので、入浴はあきらめ服を着てさっさと帰途についた。
返金してくれとごねることなどするはずもない。
ここ此花の地でよそ者は事なかれと大人しく過ごすのが不文律なのである。

大勢人が殺到する波を察知したときは、なんじ近づくなかれ、四の五の言わずに即刻退却せよ。
先日、遠出する長男を見送った際に言い忘れたので、ここに家訓として銘記しておこう。

長男と二人で久方ぶり電車に乗って中途まで行路をともにした。
ここまで来れば後は分かるだろうという途中駅まで一緒で、その先はそれぞれ行き先があべこべなので、そこで別れた。

長男を残し、私は隣のホームへ向かった。
列車に乗って腰掛けるとちょうど私の視線の方向、25mプールを隔てたくらいの距離だろうか、逆方面へ向かう列車に座り出発を待つ長男の横顔が見えた。

長男が私に気づく。
笑って手を振ってきたので、こちらも軽く手を上げる。

私の周囲の乗客からすれば、ぶっすと座るハゲでガタイのおっさんがにっこりアイドルのように手をかざす、これは一体どうしたことだろう、というものだろう。
誰かに手を振ってるのか、いや待てよ、誰彼構わずごきげんようと挨拶する気の毒なおじさんなのかもしれない。
そのような判断保留の思念が車内にそよぐ。

長男はいつからこんなに愛想が良かったのだ。
よせばいいのに、長男はまだまだ手を振り続ける。
おいおいっもういい、男子たるもの、もう前を向いて素の表情に戻るのだと思っても相手に伝えようがない。
長男の気持ちを無視する訳にもいかない。
最初は周囲の目が気になって気詰まりだったが、私も慣れてきた。
どうせ手を振るならちゃんと振った方がいい。
笑顔満面、両手を振った。

やがて列車がそれぞれホームを出る。
その余韻を反芻しカラダに刻む。

長男とは各場面種々様々なコミニュケーションを交わしてきたが、このシーンが一番だ。
いにしえより人は手を振り合ってきた。
無数の手を振るシーンの一つがそこで一瞬繰り広げられただけであるが、私にとっては珠玉の名場面となった。
先々じーんと胸に迫るような感慨伴って度々思い出すことになるだろう。

つづく