KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

理想の伴侶つづき

夕刻、買い物帰りの家内をクルマで拾って一路コストコへ向かう。
私は買い物が大の苦手で、混み合うとなれば更に不快さが増し、憂鬱な気分がなくもなかったが金曜夕刻のコストコは人影まばらでレジの行列もほとんどない。
見晴らし快適、広々した空間であれやこれや、あれもこれもとカートに入れる。

買い物後、レジ横のフードコートで子らへのみやげにピザとホットドッグをテイクアウトする。
自分の分へはたっぷりレリッシュとマスタードを振りかけ信号待ちの度に頬張る。
美味い。

家で荷を下ろし、英語の勉強する長男を連行しプールへ向かう。
車中、習いたての英語で、あなたはポークですかと拙い英語で連発する。
あなたはポークですかというワンフレーズを英語というのかどうかについての議論はひとまず措くとして、週末チェコ人は家に来られなくなったのだよ、と伝えると英語のトーンが急降下し、日本語だけを話すようになった。

夜、広大なプールはがら空きで、ファミリースペースを占拠するように3人でのびのび思いのまま遊泳する。
水辺で微睡み遊ぶ水中動物といった様だろう。
心身回復の貴重な時間だ。

昨日、理想の伴侶について書いたけれど、言葉をいくら連ねても的を射た言いようにはならない。
そんなようなことを考えつつ、この4月で閉館となるアマ湯で見かけた光景を思い出す。

どこかの会社の団体客があって、宴会前に男性陣が湯につかってワイワイ話している。
同僚のカズちゃんの結婚のことを話題にしているようだ。

カズちゃん、カズちゃんと先輩やら後輩やらが、にぎやかな声で悔しいのか嬉しいのか分からないような感情を発し続けている。

風呂に浸かる彼らの声を拾い集めると、どこか素朴で人柄のいいカズちゃんの姿が浮かんでくる。
みんなカズちゃんが好きなのだ。
傍で聞く私でさえ、なんだか幸福なポカポカとした気分になって、カズちゃんとカズちゃんと声をふり絞りたくなる。

そして、泳ぎながらの黙想はカズちゃんから一人の先輩のことに移る。
この先輩は男前で話も面白くモテモテだった。
口癖は「急降下」。

女の子と付き合っても、すぐに幻滅し気持ちが離れる。
これを彼は、急降下と表現する。

他愛ないような仕草や言葉づかい、振舞いなどで、ふっと急に嫌になるのだという。
それで他をあたる。
モテモテでアプローチも器用だから相手を欠くことはない。

何て節操のない人間なのだろうと当時は思っただけであったが、年月が経過すると見方も変わる。
彼は女性に対する幻想が強過ぎたのだ。
女性そのものがまとう幻影を勝手に膨らませ虚像に焦がれる。

幻影はふとした拍子に萎みはがれ落ちる。
女性に落ち度はない。
彼が勝手に虚像の裏側を垣間見て興ざめするだけのことだ。

もちろん、強弱の差はあれ、誰しも異性に対して幻影を見る。
そうでなければ、恋い焦がれるなどといった事態が生じるはずがない。

幻影とは何か、と言われても説明のしようがない。
魅力の素となるフェロモンのようなものなのだろうか。
異性に惹かれるよう誰にでもセットされた摂理のようなもので、その幻影がなければ、男女の別さえも存在せず仲睦まじい親密なやり取りなども生じ得ないものだろう。

この幻影は意志の力では簡単に解体できるものではない。
あんなのは所詮、骨と皮の肉袋に過ぎないのさと虚心に思おうとしても、その人だけは別様に見えてしまう。

いずれ消え去るにしても結構頑丈なもののはずが、その先輩の場合には次から次へとたちまち解体してしまい揚力失い急降下、復元することは二度となくおれは何やってんだと素に戻るわけである。
何らか病名が付されるような症状なのかもしれない。

幻影の奥に息づく実像に触れ、それに好意を寄せるなら寄せる、ということがない限り、幻影ハンターはハンティングを引退することができない。
周囲が次々弓を置き現場を退くなか、狩猟場駆け巡り矢を放ち、刺さっては抜き刺さっては抜き、それでも矢を放つ。
資源の無駄遣いも甚だしい。
ハンティング自体が好きでやめられないのかもしれないが、いい歳になれば殺生から身をひき世のため人のためもっと胸張れる他のことにエネルギーを注ぐべきだろう。

アマ湯で男性陣がカズちゃんカズちゃんと呼ぶ面影には、カズちゃんの実像のようなものが伴っていた。
そこそこの器量よしでもあったのだろうが、それよりも、実質ある良き人間味をカズちゃんは職場で醸し出し、男性陣はそれにこそ好意を寄せていたに違いない。
男性陣の声のトーンにそのような良きものへの敬愛がたっぷりこもっていることがありありと分かった。

もちろん字義通りに、幻影という被膜と実態としての実像が実在すると捉えるようなことではない。
もののたとえであり、そのたとえにとらわれ過ぎれば空想のタマネギの皮をむき続けるという無為に労力費やすことになる。
一面の真実をキャッチできれば、それで十分、もののたとえは役割を果たしたことになる。

中身は毒まみれという女性もいるご時世だ。
幻影の存在を承知した上で、良き実質、生涯を供にしようという実質のあるなしを見極め、見つかれば長い長い付き合いが始まるだけのことである。

前の公園でウグイスが鳴く。
陽気に呼び覚まされるように桜が一気にその花盛りを迎える。
明日は最高のお花見日和となりそうだ。
イタリアン、中華、韓国料理、、、どれもプロ級の腕前だがさあ明日家内が振る舞う料理は何だろうか。