KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

野球道具を子に買うことには深い意味がある1

(1)
明け方、クルマで事務所へ向かう。
取りだめしたPodcastを車内で流す。
先日テレビで放送されたというアイスマンの話になって引き込まれていく。

1991年9月、イタリアはエッツ峡谷の氷河で彼は発見された。
その年、ヨーロッパは記録的な猛暑が続いていた。
標高3000メートル地点、氷がほどよく溶け、奇跡的に登山者の目に触れることになった。

彼の胃からシカやヤギの肉、原始的なパンのようなものだろうか炭で焼いた穀物が検出された。
腸で発見された数々の花粉から短時間の間に高地と低地を行きつ戻りつ走破していたと見られる。

入れ墨がある。
特に腰に数多く目立つ。
検分すると、鍼灸のツボと合致している。
腰が悪かったようだ。
肩に矢の刺さった後があり、右目上の頭蓋骨が粉砕されている。

今から5300年前、彼は追っ手をかわそうと山や谷を逃げ回り、高地で一休み食事した直後、背後から弓を打たれ、後頭部を石で打撃された。
仰向けに倒れ、俯せになって絶命した。
46歳であった。

事務所に到着する。
休み明けはいつにも増してやることが目白押しだ。
駆け出しの頃は、テレビでニュース観て新聞ぱらぱらめくって、よっこらしょと仕事に取り掛かっていたものだ。
いまはコーヒー沸かし、音楽流してすぐに取り掛かる。

先制パンチが肝心だ。
もたもたしていたら弓で急所穿たれる。

(2)
滑り出しは快調、コーヒー飲みつつ、ふと思いついてYoutubeでBlackのWonderful Lifeを聴く。

かつての大ヒット曲であり今も褪せない名曲だ。
のびやかで、その場の空気の気持ち良さが伝わってくるような映像を眺めつつ、かつてこの曲を聴いた各場面の余韻にひたる。

眼前の情景はワンダフルだが、歌う主体はそのなかにいるのではない。
対岸に立ち、見渡しているといった印象を受ける。
彼自身は果たしてワンダフルな心情のうちにあるのだろうか。
おそらく、そうではない。
それでも彼は、Wonderful Lifeと歌う。

アイスマンが生きた時代、殺戮が日常的に起こり、死因のトップが揺るぎなく殺人であったようなその当時、感傷といったものは存在したのだろうか。

切り刻もうがひっくり返そうが、はたまた胃や腸のように中身を微細に調べ上げようが、そのような心の動きのようなものはもはや知ることができない。

アイスマンは腰に純度99.7%の銅製の斧を所持していた。
人類が銅の精練技術を手にしたのは2000年前と考えられていた。
しかしそれよりはるか以前、5300年前にその技術が存在していたことがアイスマンによって明らかとなった。
しかも中国二千年の歴史はるか以前に、鍼灸の技術も存在したことになる。

人類は侮れない。

大昔の人間は、私たちが思う以上に、今の人間と似かよっていたのかもしれない。
そうであれば、いまの人間が有する感情的なものを、もっとサバサバしていたかもしれないが、そっくり一揃い持っていたとしても不思議なことではないだろう。

つづく