KORANIKATARUTOKIDOKI

子らに語る時々日記

夏休みで骨休め

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頭痛持ちは頭痛ほどつらく厄介なものはないと言い、腹痛持ちは身がよじれのたうちまわる痛みを知らないのかと頭痛持ちを冷笑し、下痢持ちは下痢持ちで辛抱し耐え凌ぐ沈思の時間ほどに苦しいものはないと主張するが、腰痛持ちは君らはアホらしい、君たちは痛みの何たるかその片鱗にすら触れていないと上から見下ろし相手にしない。

このように痛みや苦しみは当事者においてのみ具体的であり、差し迫り危急の焦点あてるのは本人ただ一人、他人のことなど文字通り他人事となる。
多少は気の毒にとお見舞いすることがあっても例えば誰かに話しかけられた途端、はたまたお腹がグーと鳴って食べ物のことが頭に浮かんだ即座、憐憫の情はおいとまし、通じ合いそうであった何かが雲散霧消する。

そのように思えば、痛い痛いなんて極めて個人的な事柄であり、頭痛がたまに酷いのです、と話題にするのもみっともないような気がするけれど、日記なので要は記録が第一、心ばかりの夏休みを前に蓄積した疲労群がズカズカ怒濤の如く右往左往し、それが痛みとなって現れ出ているのであろう、と思った程度のことは書き留めておくことにしよう。

ロキソニン服んで、ようやく柔らかな膜で覆われたみたいに刺々しい痛みが弱まり何とか仕事をこなすことができた。


二男のラグビー合宿の様子が家内のiPhone通じて届けられる。
長身痩躯の二男であるが近頃はカラダの厚みがぐんぐん増してきて、不意に寝相を目にすると長男と見紛うことがある。
せがれがでかくなる、これほど単純手放しに喜べることはない。

一方の長男はラグビーでの右手指の腱断裂のため部活にも出られず、何と言うことだろう、我が世の春だと言わんばかりに文科系きわまるひと夏を過ごしている。
本読んで映画観て飯食って屁をこいて寝る、という文科系の夏。
完治すれば徹底的に運動に身を投じさせなければならない。
さもないと、この夏で三年寝太郎の暦がスタートしてしまう。


昨夜、頭痛に顔面歪めつつ長男とギャングオブニューヨークを観た。

ディカプリオが格好いいという長男であったが、隻眼の敵役ダニエルデイルイスがいてはじめて奥行きたっぷりの名作になり得ているといえるだろう。

目は口ほどに物を言い、ということがどのようなことであるのか、数々の具体例をダニエルデイルイスが体現している。
凄い役者である。

アメリカでは、言わぬが花や以心伝心、阿吽の呼吸といった機微細かいコミュニケーションなどあり得ない、ハンバーガー食ってコーラ飲んでればそんな芸当できるはずがないと巷間よく耳にするけれど、この映画を観ると、彼らにだって深みある言外コミュニケーションが当り前に存在し、機能していることが分かる。

日本人だけの専売特許だと考える方がどうかしているのだ。
日本人だからどう、アメリカ人だからどう、という話ではなく、それを解する知性に個人差があるというだけのことなのだ。


ベッドに寝転がり私は頭痛と対峙し、長男は本を読む。

長男から唐突に質問を受けた。
いまは男ばっかりの学校だから急ぎではないが、いつかそうなったときのために聞いておく、女子をどうやってデートに誘えばいいのか。

そんなことも知らないのか。
世界共通で昔から決まっている。
映画に誘ってご飯を食べる、それが唯一正しい公式ルールである。

映画に誘って相手の都合がいつだって悪いようならデートはあきらめた方がいいし、映画に誘ったのに遊園地や水族館などに行こうと言われたらこの場合もあきらめた方がいい。
前者の場合、彼女は他の男子と映画に行くことになるだろうから君に出番はない。
たまたまそこでは出番がないという場合がたまにあるから仕方ない。
君が悪い訳ではない。

後者の場合、これはもうつまらない。
甲子園球場ならいざ知らず、映画より遊園地や水族館がいいなんて、君がそのような趣向でない限り合わせる必要はない。
うん、映画に行こう、何を見ようかという相手の方がいい。

君の趣味は、映画か読書か旅か釣りか焼肉それに野球観戦、そのようなものだろう。
それを一緒に楽しめる人がいいのではないか。
傲慢なことを言うつもりはさらさらないが、老婆心から言うなら、無為だと感じることについて、気の進まないことについては全くもって合わせることはないだろう。


尼崎ダントツの名店である志津鮨がつい先日全焼したという。

卓越した職人芸で数多くの美食家を唸らせてきた大将とおかみさんの様子を思い、あの舞台がなければ大将はどこで腕を鳴らせばいいのだ、記念の日は志津鮨だろうと思い定めていた我々はどこで食事すればいいのだ、と路頭にも迷うような気持ちで家内と話し合っていたところ、常連客の岡本から連絡が入った。

年末には復活する、ということだ。
ほっとする。
リニューアルの日まで大将とおかみさんにとってはいい骨休めの期間となるのではないだろうか。

星のしるべ尼崎大会の際、利用するのはどうだろうか。


さて、明日から数日夏休みに入る。
来年になれば二男が受験一色に染まる。
何としても今夏休みをとらねばならなかった。

8月締めの仕事はほぼ目星ついている。
9月締めのレビューは旅先にて連日未明に行う。
完全にスイッチをオフにするとこの波乱万丈な流れに戻ることは極めて困難となる。
だから自己保全のため必ず数時間は仕事に充てる。

それでも、十分に休みを満喫できる。
ラグビー合宿終える二男と合流し、遠路はるばるクルマ走らせこの夏猛暑の記録を更新し続けているフロンティアの地へと向かう。
お供する音楽はエルトンジョンにスティング、そしてビートルズ
子らに生涯焼き付く名曲のラインアップとして申し分ない。